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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)1099号 判決

上告人(被告・反訴原告・控訴人・附帯被控訴人) 川本甲龍こと鄭甲龍

右訴訟代理人弁護士 市原庄八

被上告人(原告・反訴被告・被控訴人・附帯控訴人) 安積瀘紙株式会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人市原庄八の上告理由一点(一)について。

原判決の判示に所論の理由の齟齬は認められない。被上告人が四国銀行に対し金五〇万円を支払ったのは川本商会が当該七通の手形を四国銀行から買い戻すにつき代位弁済をしたものであって、手形振出人として自己の手形金債務を弁済したものではないとする原判決の事実の認定判断は、その挙示する証拠関係、事実関係から正当として是認することができる。

また、四国銀行は被上告人がその弁済金五〇万円の限度で同銀行に代位することを当然承認していたものと推認され、右認定を左右すべき証拠はないとする原判決の認定は、原判決が確定している被上告人、川本商会(代表者上告人)、四国銀行間に成立した手形買戻に関する協議の内容及び本件証拠関係から、正当として是認することができる。

原判決に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解せず、独自の見解に立ち、適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定、それにもとづく正当の判断を非難するに帰し採ることができない。

同(二)について

所論指摘にかかる原判決の事実の認定は、その挙示する証拠関係、本件記録に徴し正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立って適法な原審の事実認定を非難するに帰し、採ることができない。

同(三)について

原判決を通読すれば、原判決は、当該手形について、被上告人と川本商会間に、民法五〇五条所定の相殺がなされたことを判示しているのではなく、当該手形について相互に対当額につき支払義務を負担しないこと等を内容とする相殺契約が成立した旨判示しているものと解することができる。そして、銀行で割引され銀行が所持する手形についても右のような内容の契約ができないものではない(しかも、原判決の確定した事実によれば、右契約の日に、川本商会、被上告人、四国銀行間の協議で、川本商会が右銀行から割引済の該手形を買い戻すことに合意されているのである。)。上告人の所論抗弁を排斥した原判決の判断に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解せず、独自の見解に立って原判決を非難するに帰し、採ることができない。〈以下省略〉

(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

上告代理人市原庄八の上告理由

第一点原判決は判決に影響を及ぼす事明なる法令の違反及理由を付せず又は理由に齟齬ある判決である。

(一) 即ち原判決第二中二に於て「次に被控訴人の予備的請求原因二の主張について判断する、前認定の事実関係に依れば被控訴人は川本商会が四国銀行に対して負担していた前記七通の割引手形の買戻債務金一三三万一、六六八円のうち金五〇万円の債務を川本商会のために同銀行に対して弁済したものであるところ右弁済に付いては被控訴人川本商会代表者控訴人四国銀行らが協議の結果なされたものであるから被控訴人は右弁済により川本商会に求債権を取得したものと認められ」云々と判示せられた。

然しながら右は其前項即ち本判決理由第二の一の理由と対照するときは相互に其理由が齟齬している事が充分うかがわれるものである。

次に原判決は続いて云々「且つ債権者たる同銀行は被控訴人がその弁済金五〇万円の限度で同銀行に代位することを当然承認していたものと推認され右認定を左右すべき証拠はない、そして川本商会が同銀行に負担していたすべての債務につき控訴人が連帯保証をなしていたことは前認定のとおりであるから被控訴人は右弁済により同銀行に代位して主債務者たる川本商会及連帯保証人たる控訴人に対し金五〇万円の限度で支払を求め得るものと云わねばならない、と判示しているのである。

然しながら右の被控訴人が右五〇万円の弁済により川本商会求債権を取得したるものと認められるけれ共右金五〇万円を被控訴人が銀行に支払ったのみを以て直ちに同銀行に代位した事にはならない、何となれば被控訴人も同銀行に対しては手形債務の債務者である、従って被控訴人が右銀行に支払したのは手形債務者として支払ったものであり川本商会に対し求債権云々は別問題として代位弁済ではない。

此点に於て原判決は事実の認定及法令の解釈に違法があるし事実を不法に確定したる違法がある。

又原判決は「右の如く同銀行に代位することを当然承認していたものと推認され右認定を左右するべき証拠はない、云々と判示していることは前記の通りであるが右の如く同銀行に代位することを当然承認していたものと推認され、とは何等証拠に依らずして認定しているし証拠の法則を誤っているものであり、次に原判決は右認定を左右する証拠はない云々と云うけれ共此れも反対に何等原審の認定をするにつき証拠がない、以上原判決の認定は之れ又反対に証拠に依らざる判決であるかまたは採証の法則を誤ったものである。

(二) 次に原判決は前記理由第二の二の中に於て「そこで右予備的請求に対する控訴人の主張について順次検討すると、イ、控訴人は被控訴人が四国銀行に対し五〇万円を支払ったのは前記七通の手形振出人として自己の手形金債務を弁済したものである旨主張するが前記認定を覆すに足る証拠はないと判示しているのであるが本件手形を一見せば被控訴人が自己の手形の債務者である事は確定不動のものであるから此点に付きても何等説明もなく採証上の違法がある。

(三) 次に右第二の二中云々(二)(判決書十三枚目初行)控訴人の当審での相殺の抗弁(当審(五)の主張についても前認定の通り被控訴人振出の前記(一)の手形については昭和三七年五月四日相殺に依り被控訴人の川本商会に対する支払義務が消滅したものであるから右支払義務の存続を前提とする控訴人の右抗弁は失当であるとし而して右に対する認定は原判決理由第一の二の(ロ)(七枚目)の如く(一)の手形は川本商会に対する被控訴人の買受代金の手形であり且つ株式会社四国銀行宇和島支店で割引済であった事も認定の通りである。然らばこの手形の支払義務者は被控訴人であり(銀行に対する関係において)銀行にある手形と被控訴人の自己の手形と相殺する事は相殺の性質上適切でない事は法律上明白である、然らば原審認定の相殺は法律上不適法であり控訴人が原審に於て主張したる相殺の主張は当然採用すべきであるにかかわらず此れを採用しなかったのは理由不備であると云うべきである。

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